設計士/コンセプト


文:高橋敏三氏(設計担当一級建築士)  画像:プロジェクトチームKAZE21
―この「はなれ」は絵を飾りません。窓からみえる四季折々の景色が絵画そのものです。―
―過ぎ行く時間を忘れ、(中略)何もしなくても過ごせるような居心地の良い「土間空間」を目指しました。―
(本文より)

一級建築士:高橋 敏三






星のふる舎 「はなれ」新築工事
2002年 12月
空創計画 TTアトリエ

 星のふる舎の建主であるF氏は
この素晴らしい自然環境を、独り占め
することなく、様々な人々に楽しんで
もらうため、都会の人々に田舎暮らし
を体験できる「はなれ宿」を創りたい
と願った。

 ここは四方を山に囲まれ、東側の谷
間から朝日が昇る。南側の小山を通り
過ぎた太陽は西側に見える谷間を夕日
で染める。
 眼下には岩肌を流れる西川と敷地内
に流れる小川の合流が望める。

 景色は季節によって・時間によって
微妙に変化する。
 春は木々の若葉を夏は小川のせせら
ぎを秋は山全体に燃えあがる紅葉を楽
しめる。冬には辺り一面の雪化粧を見
ることができ、自然の厳しさと大地の
温もりを肌で感じられる。

 
ここに存在する建物は、その美しい
山並み・木々の樹形。自然が創った、
「美」を壊さない自然と調和したもの
さらに環境に溶け込むものと考え、山
のスカイラインをより美しく引き立た
せるため可能な限り平坦な屋根とし、
シンプルな外観がよいと考えた。

 また、既存のログハウスを母屋に、
「はなれ」が数棟建設される計画があ
る。初めに建てる「はなれ」は敷地内
の高台部分の西隅に配し、後に建つ建
物の工事に支障がないよう配慮し全体
計画を同時に行った。
 またこの位置は西側に八海山という
崖と敷地内に流れる小川に近く、誰か
らも覗かれない露天風呂の場所として
絶好の位置となる。

「はなれ」の設計にあたり建主から、
 「土間があること」
 「結露しないこと」
 「囲炉裏または暖炉があること」
  が望まれた。







左から建主F氏、ディレクターI氏、設計高橋敏三氏

 「土間で使う土」からは全ての生命が誕生し、また生命が帰ってゆく場所でもあります。
家族の中では「母親」の存在であり、建物も大地から建ち上がります。
 冬の防寒対策として、屋根と外壁・床には十分な断熱を施し、開口部は3枚ガラスの木製
サッシュによって結露を防ぎ、真冬でも暖炉1つで十分な暖を取ることが出来ます。

 
土間(居間)と和室(寝室)には1mの高低差を設け、和室は落ち着いた寝室となります。
土間は天井の高い開放的な場所となり正面の小山の頂きと、美しい夜空が一望できます。
和室からは土間と庭と川が同時に見下ろせ、露天風呂や北側の杉林も見渡すことが出来ます。
 この「はなれ」は絵を飾りません。窓からみえる四季折々の景色が絵画そのものです。

 土間の中央には一本の大黒柱があり、そこに丸太の梁が架かり建物を支えています。
建物を支える大黒柱のように、家族を支える「父親」の存在をこの場所で再認識できると期

待し、さらに大黒柱を支える多くの人々によって、家族が成り立っていることに気づいて欲
しい場所であると期待しています。
 過ぎ行く時間を忘れ、星空と暖炉に燃える火を見つめ、何もしなくても過ごせるような居

心地の良い「土間空間」を目指しました。

 露天風呂は和室の下にあり、敷地内に流れる小川の水面と同じ高さに設定し、まるで川の

中にいるイメージです。風呂からは岩の上を歩き小川まで歩け、暖かい日には川遊びをしな
がら長い時間楽しめる露天風呂です。
 目の前の大きな崖(八海山)は目隠しとなり、誰も気にせず露天風呂を楽しめます。この

崖は朝日を浴びると樹木の影が映る赤色の壁面に変わります。
また、ここから谷間に沈む夕日も見え、天井があるため天気に関係なくいつでも楽しめます。

 
短い期間の設計・建設工事でしたが、永く人から愛される「はなれ」を創りました。
 この「自然」の中で「家族」で楽しく過ごした体験が永く記憶に残ることと期待します。

2002年12月 空創計画/一級建築士 高橋 敏三